8.06.2014

ヒマラヤコーリング Q&A

イベントを開催してから2月程経過しました。数回に分けてイベントの振り返りレポートをさせていただきました。(三田さんありがとうございます!)実際はもっと濃く長い話が会場では流れましたが、どんな内容だったのか少しは理解いただけたのではないかと思います。イベントでは時間が押してしまい当日にスピーカーの方々とお客様とのQ&Aを実施する事が出来ませんでした。お客様からいただいた質問事項に対して時間がたってしまいましたが、ここにQ&Aを掲載させていただく事に致します。


Q&Aにお答えいただいたのはイベントに参加いただいた三田正明さん、根本 秀嗣さん、庄司康治さんになります。それぞれのお名前とイベントレポートをリンクさせていただきます。

質問を送ってくださった参加者の皆様ありがとうございました。
おまたせいたしました。





Q1.
1週間程度の休みでもヒマラヤトレッキングを体験する事は出来ますか?
またお勧めのコースがあれば教えてください。


A :三田正明さん

できます! ヒマラヤの麓を巡る数日間のトレイルもたくさんあります。ですが、それだとヒマラヤを遠くから眺めるだけでになってしまうと思うので、お薦めなのはアンナプルナ・ベースキャンプ・トレック。ポカラから4~5日で8000m峰アンナプルナのBCまで行けます。間近から仰ぎ見るアンナプルナ、マチャプチャレは本当に圧巻です。


それにランタン・トレックも一週間程度で往復できるのでお薦め。標高4900mのツェルゴ・リーからの眺めは最高です。ともあれ、どちらも歩く日程だけで1週間はかかるので、移動日なども含めるとできれば最低10日ほどの休みが欲しいところでしょうか。 


A:根本 秀嗣さん
カトマンズの市場や寺院見学、世界遺産訪問、はたまたブラブラ歩きなどの魅惑的な行程も最低1日位は組みいれたいですね!
・歩きで行ける、カトマンズ盆地から最短のエリア、ランタン&ヘランブ。
・国内線飛行機で往復する、ポカラからアンナプルナ南部の展望台ゴラパニ峠方面、またはムスタンの入口であるジョムソンからロワームスタンまたはヒンドゥー教の聖地ムクティナートの街などなど。(根本)


A:庄司康治 さん
交通機関の情報収集と、バックアッププランをしっかり立ててください。そうすれば、1週間でも充実したヒマラヤを体験できると思います。

ゴレパニ峠(プーンヒル・ネパール)
 ダウラギリの最高の展望。帰路、マイナーなルートを辿り、トレッキングマップにはない村々を訪ねる。温泉!

チョモランマ・ベースキャンプ(チベット)
 エベレスト北面のベースキャンプ。必見です!

パロ谷(ブータン)
 タクツアン僧院など、歩いて回る、カルチュアルトレック
豊かな文化!

カトマンズ盆地周回トレック(ネパール)
 近年、トレランにも人気。盆地のあぜ道トレックも素晴らしい!
秋の収穫期は美しく、祭も多い!

カトマンズ~ポカラ旧街道(ネパール)
 いにしえの交易路。今でもチベット方面からのキャラバンに出会う!
昔の登山隊はこのルートを辿りポカラまで歩きました。

ツロブギン峠(アンナプルナ・ネパール)
 アンナプルナ北面ベースキャンプへの峠
ダウラギリとアンナプルナの素晴らしい展望キャンプ地!

ミヤグディ・コーラ~ドルパタン~タンセン(ネパール)
 ネパールとは思えない森林、ジャルジャラ峠の素晴らしい展望!
雪男伝説。チベット人が暮らすドルパタン

キナウル(インド・ヒマチャルプラデッシュ州)
 かつての夏の首都シムラから。民族と文化がどんどん変化。
独特の木造建築群は見事!

スピティ(インド・ヒマチャルプラデッシュ州)
 マナリからロータン峠を越えると目前に広大なヒマラヤの展望が開ける。
マナリは、温泉と洒落たペンション、トラウトフィッシング!

花の谷 Valley of flowers(インド・ウッタラーカンド州)
 78月、花の谷の美しさは、言葉を超えている!
地球上で最も美しい花の谷!

ラダック・チャンタン高原(インド・ジャムー&カシミール州)
 ツォカル湖からツォモリリ湖へのトレッキング。広大なチベット高原の果てのトレック。温泉!

プクタル僧院(インド・ザンスカール)
 ザンスカール最奥、洞窟僧院。世界遺産級!

ヌブラ谷(インド・ラダック)
 カルドゥン・ラに立つと、カラコルムの山々が聳え立つ。温泉!
世界最高所のマウンテンバイク!

タルー族の村々(西ネパール)
 秋のダサイン、春のホーリーの祭の季節。独特の民族衣装と踊り、そして不思議な巨大壺の家。外国人はめったにいない!

ムスターグ・アタ(パミール高原・中国)
 玄奘三蔵や、マルコ・ポーロなどが通過した、歴史的な街道
遊牧民のキャンプ、湖!

ホームステイ
 現地の人の文化に触れ、お互いの友情をきずきましょう!


*ルクラなど山にある飛行場は天候によって飛ばない事があるため日程通りに行動する事が出来ない事もあるかもしれません。ご注意ください。(夏目)




Q2
ヒマラヤを歩いていて怖いと思った事はありますか? 


A:庄司康治 さん
トラにストーキングされた
帰りのフライトが飛ばない!(特にエベレスト方面)

*トラに遭遇したのは、個人トレッキングで入れるメイン地域の高地ではなかったと思います。


A:根本 秀嗣さん
はじめに、一般的には参考になる話ではないとお断りしておきます。
歩いていてではありませんが、スライドショーでもふれた「去年のマカルー山域の旅」、それも標高1000mほどの別々な2本の川で行なった川魚のサシアミ漁でのこと。こういうことを行う時、私達は通過地点ごとの地元の方との摩擦を避けるために、アクセスしやすい川岸を避けて、あえて人目の無いリスキーな場所へ行きます。それでも通り道からは意外と近い場所。つまり穴場探しをします。1回目の場所はより困難度・危険度の高い状況でした。吊橋から見下ろす激流へは、ドロで塗り固められ、頼りない下草と細い灌木が生えた高さ50mほどの急峻なもろい岩峰を乗り越し、瓦の大きさ位の瓦礫が不安定に堆積した急な斜面を下りてアクセス。瞬間的には斜度が60度を越える部分がでてきます。握れる物がほとんど無い状況で。川岸伝いに約20ヶ所、サシアミを仕掛けていく合間合間では、パワフルな瀬を渡る渡渉が連続。帰りは急な川岸のドロ壁を数十m上って現地の猟師が使う杣道を見出し、水平気味にブッシュ漕ぎして。ブッシュの中には、触れただけで酷い痒さが1週間つづく毒草モランゲ。この間の行動中約2時間はずっと元気のいいズッカ(ヤマビル)が足元でダンスを踊っています。「怖い体験」というよりは、「キツイ体験」でしょうね。この旅では食物の自活も行なったので、そんな体験もありました。


A :三田正明さん
今回のトークショーでもお話しましたが、ヘランブー・トレックのシバプリ国立公園内のトレイル上で強盗に会いました。刃物を出されて有り金とカメラを巻き上げられそうになりましたが、1000ルピーを渡してことなきをえました。あまり人の歩かないマイナーなトレイルでは、午後4時以降ひとりで歩かない方が良いです。



Q3
最初にヒマラヤに行くならここがいい。
というオススメの場所はありますか?


A :三田正明さん
どこでも良いと思いますが、なるべく6000m以上の高峰に近づくか標高4000m以上まで行くことをお勧めします。やはりその方が断然インパクトが増します。どこかひとつと言われたらやっぱりエベレスト街道。クンブー山脈のエネルギーの大きさはやはり凄まじい。人が多いのが難点ですが、ゴーキョー方面を選べばそれほどでもないです。


A:根本 秀嗣さん
人によってどんな対象に心惹かれるのかは違うのでしょうが、私ははじめてのヒマラヤで荒涼としたアッパームスタンを見ることになりました。ここは「中世的文化・技術」が「現代文明」と衝突または邂逅しているという状況の場所です。「ある峠をある期間内に通ったなら干ばつが村を襲う」など、いにしえの迷信をまだ人々は信じ続けていたり、崩れた石積みの壁が迷路をなす「城塞都市」。訪問した時はまだ王制が敷かれていて、ときどき王様は民衆の畑を直接見て回って自分の国の状況を把握しているのです。ほとんどの寒村にロッジや商店が無く、ひじょうにトラディショナルな風情漂う村長さんの家々に泊まりつないで旅しました。最近はこのムスタン方面へのアクセスが大分楽になったようです。それは最寄りの都市ポカラから車道がどんどん伸びてきているから。現代文明の波が津波のようにムスタンを覆ってしまおうとしている今日、今のうちに見ておいて欲しい場所かなとは思います。パーミット料は高額となりますが、できるだけアッパー(奥の)ムスタンまで頑張って行って欲しいです。


A:庄司康治 さん
その場所、目的に、最適な季節を選ぶことがいいと思います。



Q4
高山病対策を教えてください。
出発前や日頃から出来る事はありますか?

A:根本 秀嗣さん
高山病は意外とすぐ発症しますし、それを防ぐにはまず「頑張り過ぎないこと。」だと思っています。高いところに行けば、みんな多かれ少なかれ軽い高山病(頭痛・息切れ・思考力減退・寝付きが悪い)には掛かります。例えば私の経験。6,700mくらいの未踏峰を登ろうという時、BC(5,150m)から氷河の奥のC1(5,550m)まで行く所要時間ですが、1回目は6時間位かけたし、ちょっと苦しさがつきまとい思うように足が前に出せないので実際やむなくかかってしまうのですが、2回目に行くときは確か4時間位で、3回目には2時間台だったかと。じょじょに身体が高所順応していくわけです。マッキンリー登山の時のデポキャンプ(3,350m)BC(4,330m)HC(5,240m)へという時も各2回ずつ上がっていますが、1回目より2回目と、画期的に身体が楽になります。しかし初回の標高獲得時は身体が辛いです。標高3,000m以上になったら水分を意識的に身体に取り入れ、面倒ですが、おしっこに頻繁に行って下さい。また、寝る前と起きた時の脈拍を取って毎日メモしてみてください。異常時には早めに気付けるでしょう。旅の道連れがいたら自己を客観的に診断できるように「バディ・チェック」を意識的にしましょう。自己のステータスに敏感になることが大事です。


A:庄司康治 さん
症状を感じたら、我慢せず、即、標高を下げる!
日頃は、水泳や、ランなど濡れたマスクでのランは、効果絶大!


A :三田正明さん
月並みですが、標高3000mを超えたら寝る場所の高度を一日に300m以上あげないこと。異変を感じたらすぐに下ること。標高3000m以上ではダイアモックス(高山病の薬)を飲むこと。ダイアモックスはカトマンドゥかポカラの薬局へ行けば簡単に手に入ります。出発前や日頃から出来る事はないと思います。



Q5
日本の山と一番違うと感じたところはどこですか?

A :三田正明さん
とにかく山が巨大なこと。日本に限らず他の山脈とは桁がひとつ違う。


A:庄司康治 さん
目測のスケール!  村の人たちの優しさ!


A:根本 秀嗣さん
大陸の大自然は共通してスケール感があります!日本の山でオフトレイルに積極的に入り込むなら、国土地理院発行の1:25,000地形図の情報は欠かせないし、ミリ単位の詳細な読み込みがリアルに必要なときが多いですが、ヒマラヤでは1:100,000のトレッキングマップで読み取れるほど、地形の単位が大きくなってきます(ネパールヒマラヤなら官製1:50,000地形図はあります。ナビの難しいところはコレが活躍します。)。もうひとつ。会場で説明した「パハール(中間丘陵帯でおおよそ標高2,000m~4,000m)」では、「地形の単位」たとえば1本の尾根、は「日本アルプス1本」位の大きさがあると感じていますが、その高低のいたる場所で田畑が営まれ、村落ではイキイキとした地元住民のエコロジカルな暮らしを見ることができます。村と村、村と田畑をつなぐ網目のような生活道。たとえば日本の北アルプスにこの状況をおいてみたら、どんな景観となることでしょう?日本でもつい近代まで、山人の文化が息づいていたと聞きます。かの地では、「自然と調和して暮らす山人の暮らしぶり」と、リアルに直面できます。



Q6
ヒマラヤに持って行くギアについて教えてください。
日本の山と比べてどうでしょうか?

A :三田正明さん
一般的な宿を利用したトレッキングならば無雪期北アルプスの小屋泊装備で十分だと思います。


A:根本 秀嗣さん
旅の長さにもよるのでしょうが、基本的には、より丈夫なアイテムをチョイスしてほしいかなと思います。それと万が一のために修繕キットも持参してください。分厚い記事の破損箇所もロウ引きの太い糸で強引に縫ってしまえる「ハンドミシン」などは超お薦めです。「アロンアルファ」「ダクトテープ」も必須でしょう。日本でヒマラヤでの山旅を想定してイメトレするのなら、長期休暇で行く目的地は「どこかの山を登る」でなく、「長めの歩き+登りもあり」を夏冬問わず行なっておくといいでしょう。道具選びという課題も含めて、その体験のなかから自分にとってより良いフィードバックを得ていくことです。経験者としてお手伝いすることもできますので、そのようなトレーニングの「セッティングやステップアップ」についてはいつでもご用命ください(笑)。


A:庄司康治 さん
個人的に、こんぶ茶をオススメします! ドリンクにも、調味料にも便利!



Q7
トレッキングする時のルールはありますか?


A:庄司康治 さん
現地の慣習を守る。撮影は必ず許可をもらうこと。


A:根本 秀嗣さん
グレートヒマラヤトレイルには「行動規範」が設けられています。
'Fair Trade & Codes of Conduct'の下にある'for visitors...'をお読み下さい(英語です)。


A :三田正明さん
地元の人の失礼にあたることはしないことでしょうか。



Q8. 
ヒマラヤトレッキングのコストについて教えてください。

A :三田正明さん
ガイドもポーターも雇わなければ大変安いです。宿は一泊ひとり150~400円で済むし、食事も一食300円~600円ほど。自分は去年2週間ほどのトレッキングでパーミッションや移動費を含めて3万円も使いませんでした。北アルプスを自炊・テント泊で縦走するよりも安く済むのではないでしょうか。ガイドやポーターは宿のある一般ルートをトレッキングするならばまったく必要ないと自分は思います。


A:根本 秀嗣さん
前回の「マカルー&ソルクンブーの36日間の旅」での例をご説明します。
サービス料(人件費とエージェント利益)と実際の経費(トレッキング許可料、国立公園入園料、登山料、宿泊費、食費など)の合計:US$9,250-
エア代:¥130,000-
中間経由地韓国での飲み食い泊まり代:不明
ざっとみて日本円で¥1,100,000位かかっています。


*この質問はみなさん気になる所だと思います。ヒマラヤは場所によってパーミット(入山許可書)のルールが異なりますが、個人トレッキングで入れるアンナプルナ、ランタン、エベレストでガイドもポーターも雇わなければ、現地への交通費を含めても10万円前後からヒマラヤハイクを楽しむ事が出来ると思います。ガイド、ポーターを現地のしっかりとしたトレッキング会社を通じて手配した場合には20万円〜になると思います。




根本 秀嗣 プロフィール

1975 茨城県常陸大宮市 (合併前当時は那珂郡山方町) 生まれ
2001 仁寿峰クライミングトリップ韓国
2002 ナリ 6194m   ェストバットレスルート (アラスカ山脈/アメリカ)
2003 レイドゴロワーズ ルギス大会 リタイ
2007 チャコ 6704m 南東稜 (リーヒマール/ネパール
2007 チュルーェスト 6419m (チュルーヒマール/ネパール
2007 アンナプルナサーキットからアッパームスタンへの継続トレックネパール
2011 ーズ 31ッチ ビッグォールクライミング  (エルキャピタン/ヨセミテ/アメリカ
2013 マカルー地域からソルクンブー地域への継続トレックネパール
2013 イムジャツェ 6189m  (クンブーヒマール/ネパール
2014 カンチェンジュンガ地域グレートヒマラヤトレイルと6000m峰の登山を予

 本山岳ガイド協会認定ガイ
 産業ロープアクセス同業者協会 (IRATA) 認定 LEVEL1 テクニシャ
 MEDIC First Aid 認定 BasicPlus ファーストレスポンダー






三田正明 プロフィール
カメラマン/ライター。雑誌スペクテイターを始めアウトドア雑誌等で旅やハイキングに関する多くの記事を執筆。TRAIL CULTURAL WEBMAGAZINE TRAILSではエディターも勤める。2007年からこれまでにヒマラヤへは3回訪れている。





庄司康治 プロフィール
映像作家、早稲田大学探検部OB
アフガニスタン・ワハン回廊、プラマプトラ川屈曲点、ネパール・ドルポ、ブータン・スノーマントレック…などの徒歩の旅。
エベレスト、アンナプルナ、アマダブラム、ニルギリ、シシャパンマ…などへのアルパインクライミング。
ヒマラヤの村や文化の映像制作。



もしその他ご不明な点があれば御連絡ください。初心者の僕らですが、分かる範囲でお答えさせていただきます。ヒマラヤはけっして遠い山では無く、様々な山を歩く事によって、身近な山の魅力に目覚める事もあります。(夏目)